
「もし明日が来ないとしたら、自分は何を選ぶのか? その問いに正直に生きていきたい」
自分で「選んでいない」サラリーマン時代
明るい秋の日差しが降り注ぐ都内のカフェ。向かい合った北林さんは満面の笑みで、道すがら買ったというデザインシンキングの本を見せてくれた。「店頭で見つけてピンと来て! すごく面白そうなのでみてください!」と嬉しそうにページをめくる姿はまるで少女のよう。
そんな天真爛漫な北林さんも、以前は険しい表情で日々タスクをこなす、いわゆるバリキャリだったそう。
「2017年まではずっとサラリーマンでした。いわゆるソーシャルベンチャーの先駆けのような団体に創業当初から関わっていて、最初の頃は自分のやりたいことをやって、言いたいことを言っていたけど、組織が大きくなるにつれて一般企業と変わらない働き方になってきました。大手企業との協業を取り付けたとか、売り上げを達成したとか、そうやって上司から認められることが大切だと思っていて、自分が何したいかは全く見えていなかったですね」
なぜそんなに必死になって働いていたのか。
「なぜでしょう……立ち止まる、という選択肢が見えていなかったからかな。サラリーマンたるもの全力で働くのは当然、自己を高めるために本を読んだり、勉強したり、セミナーに行ったりするのも当たり前だと思っていました。夫は私とは正反対のタイプで、会社のドアを出た瞬間仕事のことは全部忘れちゃうタイプだから、当時は色々と衝突することが多かったですね。
日々成長しなければと息巻いていたので、『成長って何?』と夫に聞かれたときは唖然としました。『この人は何バカなこといってるんだろう、成長の意味もわからないなんて…やっていられない、いつでも離婚してあげるわ』くらいに思っていました。本当にわかっていなかったのは自分だったわけですけど」
大病を転機に人生観が180度変わる
考え方が大きく変わったきっかけは、大病を患ったことだという。使命感で日々ひた走っていた北林さんだが、徐々に体調が悪くなり、ある日子宮がんのステージ3を宣告された。