
「動いてナンボ。頭で考えていてはダメ。やれることを粛々とやりながら世界中の人たちとつながっていく。それが上山集楽スタイル」
まもなく日没を迎える夕暮れ、目の前に広がる棚田が徐々に西日の影にのまれていく。それが、西口和雄(にしぐち・かずお)カッチさんの自宅から見える光景だ。自宅は古民家をもとに、いまもなお改築中だ。築150年の家ーーウィル・フラット(will flat)という。
カッチさんは、長い間ゼネコンでサラリーマンをしていた。ちょうど時代は怒涛のように押し寄せてきたバブル期。
「大京、長谷工、朝日住建。3大デベロッパーですよ。そこで秘書をしていたからめちゃめちゃ鍛えられたし、最高におもしろかったですね、毎日が」
サラリーマン時代は請負工事に携わり、目標を作り、工程管理をしてきた。つまり、終わらせることが目標だ。そして、建物は完成する。そんなカッチさんの自宅は、なぜいつまでも改築中なのか?
「ガウディって完成させないじゃないですか。完成したらおもしろくないでしょ? 何でもそうだと思うんです。もうめちゃめちゃ変わりますよ。だから周りは大変やと思います。終わりたくないじゃないですか。僕にとって完成って死んだという感じなので。ね? もったいない。で、人が作ったものは嫌。そんなの絶対にやりたくない。立ち上げたりするのが大好きなんです」
だから、最初が一番好きなのだと言う。カッチさんの場合、それは草刈りなのだ。棚田再生に携わるスタートは、ずばり草刈りだった。草刈りをひたすら続ける。毎日10時間以上する日もあるのだという。
「ほんとは労働法違反です(笑)。でもやらないとわからないじゃないですか? 極めないと。僕たぶん今、草刈りをやらせたら世界一だと思っています。若い奴らも一緒にやっていますけど、絶対負ける気がしない。だってむちゃくちゃやってますからね。草刈りは楽しいですね。おまけに集めた草に火をつけるなんて、究極のエクスタシーじゃないですか?」とおかしそうに笑った。